自分の楽しみで仕立てた表具を紹介してゆきます。
実例を見ながらその裂地にも注目してください。
小室翠雲 komuro suiun
朝顔図 扇面
刳貫表具(くりぬきひょうぐ)
小縁 風袋
蘇芳地小牡丹唐草紋金襴
中廻し
紺地宝尽紋緞子
天地
瓶覗絓
軸
溜塗頭切
小室翠雲(1874~1945)日本画家 南画家 本名 貞次郎
群馬県館林生まれ。田崎草雲に師事する。
文展、帝展審査員。帝国美術院、帝国芸術院会員。日本南画院、大東南宗院設立。
近代南画壇の重鎮として活躍。
小ぶりな扇面にかわいらしい朝顔、蔓の構図も面白い。
秋の季語ですが夏の盛りに涼やかに掛けたいと思い仕立てました。
台貼表具ではかしこまった感じになるので、刳貫表具としました。
中廻しの緞子は細かい宝尽の紋様がびっしりと散らされていますが、経糸緯糸が同色なのでけっしてうるさくありません。この裂は名物裂で 相阿弥緞子 と呼ばれます。
天地の絓は紬のような節のある表情が渋さや粋を感じさせます。
色は 瓶覗(かめのぞき) というごく浅い藍染めで、濃い中廻しの紺をやわらかくひろげて壁になじませます。
中廻し天地とも同じ寒色の藍染め系、そこで小縁と風袋にはくすんだ赤味の蘇芳の金襴で全体の調和をとりました。
軽やかですっきりまとまったと思います。
近衛信尹 konoe nobutada
和歌短冊「柴之戸や」
台表具 極小仕立て
台紙
砂子料紙 時代
一文字 風袋
亜麻色地蜀江紋金襴 時代
中廻し
白茶地大牡丹唐草紋金襴 時代
天地
紺地花唐草花鏡花鳥紋金入緞子
時代
軸
象牙頭切 時代
近衛信伊(1565~1614)近衛家18代、号は山貘院(さんみゃくいん)。
安土桃山時代から江戸時代初期の公卿で従一位関白。
秀吉の朝鮮出兵に従軍を試みて、天皇の怒りを買い薩摩に流されるなど勇ましい気性でありながら、
書や和歌など芸術的な才能にあふれていた。特に書は三貘院流と称する一派を成した。
本阿弥光悦、松花堂昭乗とともに寛永の三筆と称えられる。
柴の戸や をしひらき行き深山辺は 月吹く風に小男鹿の聲
折れやキズが多く状態は良くありません、裏打ちをはがし補修して掛軸に仕立てることにしました。
通常は床の間に掛けるため、大きな台紙に押して、ある程度の大きさに仕立てます。
今回は小さな壁掛けパネルに飾るようにとても小さな掛軸に仕立てます。
本紙の時代に合わせて古い裂地を取り合わせました。
中廻しの立派な大牡丹金襴は小さな端切れなので、ほかに使うことができませんでした。
まるで今回の極小表具のために残っていたのではないかと思うようです。
本物の時代裂は退色と金の剥落が自然な落ち着きを醸し出して、古い本紙の世界を演出してくれます。
一文字の蜀江金襴は紋様が小さいので選びました、大柄な中廻しとの対比も面白いと思います。
秋を意識した白茶の一文字中廻しを、夜を意識した紺の天地で締めました。
天地は金襴ではなく緞子地に金糸を織込んだもので、金入緞子(きんいりどんす)や飛金(とびきん)と呼びます。
緞子地は繻子織という織り方で、光沢があるのが特徴です。
総金襴仕立では重厚になりすぎですが、金入緞子にしたことで流麗な印象になりました。
誰ヶ袖屏風 tagasodebyoubu
二曲半双
地張り 金粗振り
右衣裳
白地花唐草染縫裂 時代
栗色地流水花鳥紋金襴
左衣裳
縹地銀杏紋金襴
牙色地銀杏紋金襴
縁 漆塗平角
丈が36センチほどの小さな屏風に、裂地の貼り分けによって衣桁に掛けられた衣裳を表した誰ヶ袖屏風を製作しました。
誰ヶ袖屏風は江戸時代初期に流行した画題で、さまざまな衣装が色鮮やかに描かれてきました。
構図デザインが決まったら、紙で原寸大の形を作ります。小さいことと貼り分けで表現するためあまり複雑なデザインは難しいです。
右の衣裳は松皮菱のような稲妻形に貼り分けました。
上部は古い小袖を解いたもの。大柄なのでなるべく良いところを見せるように剥ぎ合わせています。
下部は名物裂の 和久田金襴 です、流水に水鳥、魚、草花などが織り出された賑やかな紋様です。
左の衣裳は流水形に貼り分けました。
縹と牙色の銀杏紋金襴で揃えてみました、コントラストが鮮やかです。
上質な金襴に無駄がでるのはもったいないのですが、いろいろ細工にも使えるので取っておきます。
チラリと見える裏地は臙脂色の無地織、衣桁は黒の色鳥の子紙を切り出しています。
屏風下地は杉の組子、下張りは反故紙(ほごし)で骨子張(ほねしばり)、二編蓑貼(にへんみの)、蓑抑え(みのおさえ)、と貼り重ねました。
二枚合わせて鉋で削りつけ、丈夫な細川紙の紙丁番で繋ぎ合わせます。
さらに石州紙で二編浮張(にへんうけばり)して下地が出来上がりました。
金粗振り鳥の子紙を地張りしたら、広げてパーツを並べ位置決めします。
入りオゼ部分は切り分けて貼りこんでゆきます。
裏を張ったら縁を打って完成です。
裏は雀形の更紗、赤い色が画題にふさわしいと思いました。
おもちゃのようなとても小さな屏風ですが、まともに作った本物の屏風です。
細川忠興 hosokawa tadaoki
和歌短冊「落葉」
台表具 行の草
台紙
唐紙 時代
一文字 風袋
黄橡地枡形花兎紋金襴 時代
中廻
常盤色地花唐草紋絽金 時代
天地
浅葱平絹 時代
軸先
牙頭切 時代
細川忠興(1563~1645)肥後細川家の初代、号は三斎。
戦国時代から江戸時代初期にかけての武将、大名。
勇猛な武将であり教養人でもある。茶人細川三斎としても有名で、利休七哲の一人にかぞえられる。
瀬のこえは 高根の松にひきそひて 落ち葉をさそふ谷の川かぜ
元は屏風か帖に貼り込まれていたのを、ばらしたものと思われます。
痛みも見られますが時代を考えると比較的きれいな状態です。
茶掛けに仕立てるため、もとの裏打ちをすべてはがし、あらたに薄い美濃紙で裏打ちします。
台紙に押して美須紙にて増裏打ちをし、あらかじめ取り合わせておいた裂地を寸法調整し切り継いでゆきます。
本紙にあわせて時代裂にて取り合わせました。
一文字は花兎金襴ですが、よく見る火灯形ではなく枡形です。
カチッとした武家らしさが感じられるかとおもいます。
中廻しは珍しい絽金です。
薄物ではシンプルな金紗に比べ、絽は緯糸数本おきにすき間をあけて織られ変化のある表情を楽しめます。
どちらも軽やかな裂地ですが、胴入(色糸入)のこの裂は華やかです。
天地の薄絹はきれいに褪めた浅葱色で、掛物全体をすっきり締めてくれました。
このような状態の良い無地はなかなか無いので貴重です。